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債権者代位権と相続登記の関係性

2022.7.6.WED


- 債権者代位権と相続登記が問題となる場面 -


債権者代位権とは、債務者が自らの権利を行使しないときに、債権者が債務者に代わってその権利を行使するもので(民法Ⅲ・内田貴P246)、そもそも債権者は保全すべき債権を有しているのが一般的な債権者代位権の場面になりますが、これを登記実務に落とし込んで考えますと、債権者は、「ある登記」(という保全すべき債権)を実現するために「別の登記」(という債務者の自らの権利)を代位にて(債務者に代わって債権者が)申請する、という場面が想定されると考えられます。その前提から考えますと、「別の登記」と「ある登記」とは、何らの関係性も無いということはありません。また「ある登記」は、そこで終わりではなく、実際には「次の登記」を申請するために欠かせない登記であることも多いのではないでしょうか。

回りくどい言い方になりますが、債権者代位権と相続登記が交錯する場面とは、まさにそのような状況が想定されるのではないかと考えます。すなわち、債権者である抵当権者は、嘱託による差押登記(ある登記)を実現するために(民事執行法188条・48条)、債務者の相続財産である不動産に対して、相続登記(別の登記)を代位にて申請する、ということが挙げられます。さらに、担保不動産競売ではなく任意よる売却を選択した場合は(担保不動産競売は、裁判所書記官による嘱託登記になるので、司法書士からみた登記実務は、こちらが想定されると思われます)、「ある登記」を申請して それで完了ではなく、抵当権者は売却による移転登記(次の登記)によって債権上の満足を得るために、差押登記(ある登記)を抹消するための手続きをすることになります(民事執行法54条)。

このような一連の流れは、決して間断なく連続するものではありませんが、最終的な目標である移転登記を素早く実現することが通常求められますので、「別の登記」から「次の登記」までは近接していることが一般的ではないでしょうか。また、司法書士の立場から見ますと、「次の登記」の依頼が来た時点において、既に「別の登記」から「次の登記」まで、実体上の流れがある程度出来上がっているように思えます。

債権者代位権と相続登記(絵は登記申請の順番です)

債権者代位権と相続登記(イラストは登記申請の順番です)<

- 昭和62年3月10日民三第1024号民事局長回答について -


以上のような場面について先例として出されたのが、昭和62年3月10日民三第1024号民事局長回答になります。すなわち、これは「抵当権設定登記がある不動産の所有権登記名義人について相続が開始した後、当該抵当権の登記名義人が代位原因証書として、当該抵当権の実行としての競売の申立を受理した旨の証明書を添付の上、相続人に代位してする相続登記の申請は受理して差し支えない。その場合の代位原因の表示は「何年何月何日設定の抵当権の実行による競売」の振り合いによるのが相当である」としたものでした。

先例解説によりますと、上記昭和62年先例は、

・代位による登記申請に提供する代位原因証明情報は、具体的にはどういった書類が該当するのか

・代位原因はどのように表示するのか

の2点を主題としたものであり、どのような経緯により上記見解に至ったのか、一つずつ以下に検討していきたいと思います(登記先例解説集307号6頁・登記情報418号36巻9号を参考にさせて頂いております)。

(代位原因証明情報について)

代位原因証明情報としましては、「競売の申立を受理した旨の裁判所の証明書」が該当するとのことですが、担保不動産競売の開始決定がなされると、裁判所書記官は直ちに差押登記を嘱託することになりますので(民事執行法188条・48条)、開始を証する決定書の正本は裁判所書記官の手元に置いて嘱託登記に取りかかる運びになります。そうしますと、抵当権者が決定書正本を自分の手元に置くことは制度上無理であり、これを代位原因証明情報として機能させるには課題が残されてしまいます。また、時間軸から考えますと、決定書正本の手交からすぐ差押嘱託登記となりましても、登記簿上は依然として被相続人のまま、一方で、決定書正本上は相続人を表示することになり、差押登記の嘱託に齟齬が生じることによって(理論的には)却下となります。そう考えますと、担保不動産競売の開始決定がなされるよりもっと前の段階で、代位による相続登記を模索する必要性があると言えるでしょう。

そこで、抵当権の設定登記という、第三者から見た抵当権の出現としては、時間的に最も早い時点をもって代位原因があることを登記官は認定できる、という考え方もあります。それは、既登記抵当権者が、その抵当物件の所有者に代位してなす不動産の表示変更等の登記申請書欄に、「代位原因を証する書面は昭和年月日受付第何号をもって本物件に抵当権設定登記済につき添付省略」と記載がある登記申請を受理した、昭和35年9月30日民事甲第2480号民事局長通達において、その根拠になり得るものを示しております。

以上、ここまで時間軸を中心に触れてきましたが、では、実体上の規定である自己の「債権の保全の基準」(民法423条1項)とは何を意味するのでしょうか。そもそも代位登記を実現するためには、自己の債権を保全するため、そういう必要性に迫られた状況にあることを要件として満たしていかなければなりません。昭和35年先例はそれを設定登記に見出したのに対し、昭和62年先例は(結果的に)競売申立受理証明書にその根拠を求め、両者の違いは鮮明となっています。

この点につきましては、昭和35年先例に関しては、代位の対象が不動産の表示変更登記であったことが要因とされています。すなわち、表示関係は地目変更登記等、登記官の実質的審査権が機能すべき登記であり、形式的審査権とされる権利の登記とは性質を異にします。よって、権限の範囲を考慮するならば、保全すべき債権の存在が認識できれば問題はなく、その点に「債権の保全の基準」を認定するという、登記所サイドの判断が推認できるでしょう。

一方で、昭和62年先例は権利の登記であり、表示の登記ではありません。抵当権を設定し、債務不履行があれば対象不動産を換価して債権の満足を得るという行為は、抵当権の本来的機能でありますが、(そういった機能が働く前に)契約どおりの弁済によって同様の効果(債権の満足)を得る道も残されています。そのように考えますと、設定登記だけでは、抵当権が現状どちらの状態にあるのか、当事者以外にははっきりと分かりません。今、抵当権は保全(という設定の段階)から一歩踏み込んで満足を得るべき段階にある、(権利の登記については)形式的審査権から判断する登記所サイドとしましては、そこに「債権の保全の基準」をもっていきたいと考えたのではないでしょうか。そうしますと、結果的に昭和35年先例と昭和62年先例で違いが生じるのも、当然のことではないかと思われます。

そうしますと、少しおさらいになりますが、開始決定の段階まで進んでしまうと最初に触れましたように、手続上の課題が顕出してきます。他方で、設定登記だけでは債権の保全の必要性という民法上の要請に応え得るか心許ない。そこで、その中間地点である「競売の申立を受理した旨の裁判所の証明書」を提出することによって、執行手続を進める裁判所と相続登記を受付ける登記所の双方の調整を図ったのではないか、と言えるのではないでしょうか。

(代位原因の表示について)

代位による登記の代位原因につきましては、例えば売買の場合、「令和年月日売買の所有権移転登記請求権」というような書き方がなされます。これは、代位登記の登記簿から、債権者の次の行動が登記を通して把握できるように、登記請求権の形によって記載されていると考えられ、「令和年月日売買の条件付所有権移転仮登記請求権」、「令和年月日設定契約の抵当権設定登記請求権」など、保全すべき債権の内容により振合いがなされていきます。

しかしながら、相続登記から移転登記まで関連している本件においては、保全すべき債権は登記請求権という一時点を意味するというよりも、担保不動産競売の開始から移転までの全体の流れによって債権の満足を得ること自体にある、と捉える方がしっくりくるのかもしれません(結果的に、任意による売却が選択され、競売から外れることもありますが)。そこで、民事執行法の第三章「担保権の実行としての競売」との章立てを参考にしたのではないかとされています。そうしますと、時間軸としては、ここ(相続登記の時点)ではまだ競売が始まっておらず、競売から年月日の特定をすることは不可能ですので、抵当権の設定日から日付による特定をしたのではないでしょうか。その他、強制執行においても「令和年月日金銭消費貸借の強制執行」の振合いがありますので、同様の捉え方によるものかと思われます。

申請書(代位原因と代位者と代位原因証明情報)

申請書(代位原因と代位者と代位原因証明情報)

- その他の論点 -


最後に、業務を進めて行く上で気になるところにつきまして、何点か触れたいと思います。代位原因証明情報の項目で検討したことと少し重複しますが、代位原因そのものが代位による登記を可能とするだけの事実に該当するか否か、出来るだけ丁寧な検証は必要かと考えます。先例・判例・書籍等により過去の事例を当たり、ケースに応じた代位原因の見極めは必要であり(登記情報419号36巻10号103頁)、判別が難しい場合は登記官への事前相談も検討すべきかと思います。なお、本件では移転登記を受任した場合を想定していますが、司法書士による代位登記が必要となる場面や嘱託による代位登記と連件での登記申請する場面などでは注意したいところであります。

また、相続登記を代位によって申請しますと、登記識別情報通知が発行されません。後の移転登記をする際には司法書士による本人確認情報の作成が必要となりますので、予め相続人である売主側にはその旨(費用も含めて)伝えておくと良いかと思います。また、売買契約書に特約としてその旨の記載があるか、確認しておくことも必要でしょう。

差押登記の抹消は裁判所書記官による嘱託登記になります(民事執行法188条・54条)。裁判所への取下は抹消銀行の務めとなりますので、裁判所に提出する取下書は、予めFAXなりPDFなり資料を頂いて確認しておきたいところであります(取下書の印影は申立書と一致する必要があります)。その他、取下書の提出までの動きや決済日当日の売買代金流れの把握、抵当権抹消登記全般についてなど、抹消銀行とは綿密に打ち合わせをしておくとよいかと思います。


text&illustration : takahasi kei


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